バックナンバーをみる
ほおばる 2006.06.05
五目そば¥525。やわらかいチャーシューの旨味と、
野菜から染み出ている甘味がトンコツスープとマッチした
懐かしく深い味わいの一杯である。一度食べたら忘れられない味だ。

今も昔もずっと変わらず、50年以上もの月日を泉町の街で見守りつづけている「水戸屋」。

そんな水戸屋のおいしいひとしなも、何も変わらぬままそこにある。

「うちは大衆食堂だから何も凝ったことなどしていないよ。」

とてもいい匂いを漂わせている「五目そば」を前にして話すのは水戸屋のご主人。そんなご主人の前で早速スープを一口。「おいしい!」という言葉が思わず飛び出してしまうくらい、何とも懐かしく何とも言えぬコクと優しい甘味。素朴だけれども何かが一味違うのだ。

上に乗っているチャーシューもまた、ほどよい柔らかさとタレがしっかり染み込み、クセになる味である。「うちのラーメンはベースが同じで、それぞれ味によって塩、味噌、醤油を入れるんだよ。」

そのベースとなるとんこつスープは、朝からご主人が煮込み続けている。「鍋の蓋をするとスープが濁ってしまうから、蓋は空けたままじっくり煮込む」と、ご主人がプチ情報も教えてくれた。トンコツのエキスはもちろんのこと、たっぷり入れた野菜の甘味も加わり、さらにチャーシューも一緒に煮込むから一石二鳥。この絶妙な組み合わせがこの味を引き出している。スープは、煮込み続けているものに、新しいものを継ぎ足している。凝縮された旨味成分がたっぷりと入っているのである。


杵つきの機械。おもちを裏返す作業はご主人なので、機械とご主人の連携プレーが必要。 水戸屋特製絶品あんこ。草もちや季節の柏餅・桜餅などにも使われる。
水戸屋のご主人。とても気さくで優しい方だ。 「水戸屋のだんご」。この看板が目印。
こちらはお団子を製造する機械。上部に新粉を入れると、棒に刺さった団子が下部から出てくる。という便利な機械。
水戸屋では、一日100本くらいを目安にお団子を製造しているのでこれはかかせない。

「水戸屋」といえば、おだんごやいなりを思い浮かべるのではないだろうか。ショーウィンドウにずらりと並ぶ団子やおにぎりの数々。朝の9時には並ぶようにしているそうだが、午後には売り切れている事もしばしば。

お餅も店の裏にあるきねつきの機械で、ご主人が早朝からついている。とても重労働の作業だが、ご主人は「全て一から手作りだから、量はあまり作れないけれど無添加だからね。体にもいいし、昔から来てくれているお客様に変わらぬ味を提供したいからね」と、とても優しい表情で話してくれた。いなりも人気で、厚揚げの中身がお赤飯の、「赤飯いなり」

は、なんと水戸屋考案。「昔まかないで、破れた揚げに赤飯を入れてみんなで食べていたんです。それで、これはおいしいから商品にしよう!ってことになって」

日常の何気ない食事から出来た赤飯いなり、今となっては様々なお店で売っている。やはり水戸屋は歴史のある、すごいお店である。


いなりと同時に絶品なのが、お団子や草もちに使われているあんこである。

「ちょっと味見してみて。」というご主人の言葉に「喜んで!」とあんこを頂くと、こちらもまた自然と笑顔こぼれるほどのおいしさ。

「調味料の割合が大事。きちんと測っているからいつも同じ味が出せる」このあんこ、ただ甘いだけではない。丁度良い甘さにコクがある。「塩が入っているんだよ。塩が入ると入らないでは全然違う。入らないと気が抜けた甘さになってしまう」

なるほど。あんこの決め手はお塩。これで美味さも喜びも倍増の魔法のスパイスだ。


水戸屋はご主人で二代目。「一人っ子だから既に道が決まっていたんだよ。子供の頃から店も手伝ってきたし、ずっと見てきたからね。」

実は昔、別の割烹料理店に就職が別に決まっていたご主人だが、当時働いていた従業員の方が独立するということで、就職はせずに水戸屋をそのまま継ぐことになった。「物心ついた頃は店が忙しくて、従業員も7,8人いて賑わっていたけど、今は寂しくなっちゃったね。」

メニューも変えず、店と味を守り続けて50年以上。戦後から今日まで店を続けるということは、とても大変な事でなかなか出来る事ではない。


現在はラーメンも本当に多くの種類があり、ラーメン屋さんも数え切れないくらい建ち並ぶ。自分好みのラーメンを探し求めて様々なお店を回るのもおもしろい。

しかし、その前にちょっと水戸屋へ立ち寄って懐かしの味を思い出して欲しい。